スポーツジムで働くトレーナーblog

フィットネスクラブでパーソナルトレーニングをしているトレーナーです。トレーニング関連の話、フィットネス業界の話、健康関連の情報・ニュースなどについて書いています。

加圧トレーニングが流行ったのは「効果があるから」ではなくて「客が来るから」

あまり世間的には有名になっていませんが、

過去に大ブームとなった加圧トレーニングについて数年前から集団訴訟が起きており、おそらく2021年4月現在も係争中(既に済んでいるかも知れません)の様です。

と言っても「加圧トレーニングそのものがインチキだ!」という訴訟ではなく、加圧トレーニングの開発者や資格の管理団体などが世間的に謳う「加圧による効果というものが誇大広告だ」という主旨のもののようです。

この点はまた入念に調べていきたいと思いますが、ここでは加圧トレーニングについて実際に指導していた身としての過去の経験について書きます。

つまり私は過去に加圧トレーニングインストラクターとして加圧指導を行っていた経験があるということです。

既に何年も前に資格は失効してしまい、現在は行っておりません。

 

加圧トレーニング、つまり

腕や脚の付け根にベルトを巻いて血流を制限し

関節を動かして血管内に乳酸を溜め

圧を抜くことで一気に血流を促すこと

の効果についてはあらゆる実例が報告されているようなので、「一定の効果はある」ということは間違いなく言えます。

しかし、その効果というものの多くが「骨折をしてしまったアスリートの競技復帰」や「低体力の高齢者」あるいは「大きな手術を受けた後で身体を十分に動かすことができない」という状態にある人のリハビリ的な症例です。

この点に関しては加圧は本当に有効な運動手段であり、ダンベルや自体重などのトレーニングに欠かせない「負荷」として「血流を制限する」という方法が編み出されたことは発明だったと言っていいでしょう。

※この点については次回に掘り下げます。

 

ダイエット効果、脂肪燃焼効果もあると判断できますが、そもそも体脂肪を減らすためには食事コントロールが絶対に必要だという原則がありますし、ダイエット効果があった例として紹介される人というのは

日常的にウエイトトレーニングをしていて、

さらに定期的に減量する習慣がある人

または

その反対で普段はほとんど運動をせず好きなものを好きなだけ食べて太っている人のどちらかがその大半です。

 

前者の場合、

「加圧をしてみたらなんだかいつもより身体の絞り具合が良かった」と感じる人もいるようですが、既にトレーニング習慣が身に付いていて食事も自己管理が出来ているからこそ得られた効果とも言えます。

後者の場合は

加圧トレーニングを行うとなると大抵はトレーナーがその人に付いて指導をするパーソナルトレーニング形式になります。ですから加圧だけでなくなんらかの食事に関するアドバイスや改善が求められることになり、加圧の効果というよりも「加圧を始めることがきっかけとなってその人の生活習慣そのものが変ったことによる効果」といった方がより正しい言い方になります。

 

今から約10年前に加圧トレーニングはブームとなり、その指導資格保持者も激増しました。私もその一人でしたが、実際に指導者としての講習を受け、自分で加圧を実践してみるとわかるのは「これって要は筋トレと同じだね」ということです。

先ほど少し書いたように「筋トレ」とは筋肉を発達、成長させるために色々な手段で負荷をかける行為です。その負荷の掛け方の一つとして加圧するという方法もあるといった程度です。

おそらくほとんどのトレーナーがそのことを理解しています。

熱心に加圧をやり込んだとしてもメキメキと筋肉がついてくるというわけではないことは、2021年現在でも加圧トレーニングのみで身体を作ったというボディビルダーが現れていないことがそれを証明しています。

 

一般的には普通の筋トレのバリエーションの一つに過ぎない加圧ですが、ではなぜこれほどまでブームになり、みんなが指導資格を求めて群がったのかというと、ずばり「申し込みがあるから」、言い換えれば「稼げるから」です。

実にシンプルです。

 

パーソナルトレーナーという仕事は一般的にはどこかの専門機関や団体が発行する指導者資格を得て行うもので、素人でも一日で取得できてしまうような「資格を発行する側が儲けるために作った資格」もあればテキストを入念に読み込んで真剣に勉強しないと認定が得られないような上級資格もあります。

 

しかし、どんな資格を得たとしても世間一般、スポーツジムへ来る人達にその意味が分かるわけではありません。

そしてジム運営をする側のフィットネス社員たちは「商品をどうやって売るか」ということなぞ何も考えていませんから、ジム館内にはまるで「トレーナーの履歴書か?」といいたくなるような紹介ポスターしか張りません。それで申し込みがあると思っているのです。

 

トレーナーは自慢げに保有資格としていろいろな名前の資格名をプロフィールに記載しますが、その意味が分かる人などいるわけもなく、集客に頭を悩ませることになります。現在も同じ状況にいるトレーナーは多いでしょう。

 

そんな中で、プロフィールにこれさえ書いておけば自分から面倒な営業活動をせずともトレーニング指導の申し込みが来るという資格が登場しました。

それが加圧トレーニングだったのです。

 

加圧トレーニング開発者の佐藤義昭さんという人は非常に上昇志向の強い性格なようで(実際にはわかりませんけど)、加圧というメソッドについて東大の教授と共に研究し、ゴルフのシニアプロだった杉原輝雄さん(既に亡くなられています)や藤原紀香さん、杉本彩さんなどへお願いして加圧トレーニングの広告塔になってもらうなど、とにかく加圧という方法で天下を取ろうと動いていました。

今ではどうなったか知りませんが、以前に私が受講しに行った講演会では米軍やNASAに加圧を売り込みに行ったという話もしていました。

 

ただ、開発者のそういった熱心な(野心的な?)活躍のお陰で加圧はテレビや雑誌といった当時の主流メディアで取り上げられるようになりました。

また、お笑い芸人みたいなよくわかないタレントのヒロミが加圧トレーニングジム経営をしていることが世間的に知られるようになったこともあり、

末端のパーソナルトレーナーたちにも「営業不要で客が来る」という甘い汁が垂れてきたことは事実です。

あまり知られていませんが、高島礼子高知東生夫妻(当時)も加圧ジムを経営していたことがあります。

 

フィットネスクラブ館内にプロフィールを張っても

一日中施設の中で営業活動をしても

全く客が来ないまま棒立ちで過ごすという日々から

加圧トレーニングができるとなると途端に申し込み殺到です。

 

だからみんなが加圧トレーニング資格を欲しがりました。

だから加圧トレーニングは流行ったのです。

効果はまあさておき、単純に売れるから、稼げるからです。